会社を経営していれば、節税対策として生命保険を勧められることも多いと思います。
生命保険は経営者の財産形成に欠かせない商品の一つです。
生命保険を上手に活用すれば、節税と財産形成を同時に行うことができます。
ただし加入方法とその後の処理を間違うと大きな損失となってしまう場合もあります。
そこで経営者の方に「損をしない上手な生命保険の活用方法」をお伝えいたします。
まず生命保険に加入するときに絶対必要なのが、加入目的です。
目的がはっきりしない保険契約は無駄以外のなにものでもありません。
必ず明確な目的を持って、その費用対効果を認識して加入することが重要です。
目的別に加入の注意点と有効活用方法をまとめました。
1・保障だけを目的とした生命保険
生命保険で最もオーソドックスな目的が死亡保障です。
生命保険加入の本来の目的はその名の通り、人が亡くなったときに保険金を受け取るためです。
家族の大黒柱が亡くなった場合に、残された家族が生活していけるように加入するのが一般的です。
会社の加入目的も大黒柱である社長が亡くなった場合に、
そのピンチを凌ぐために加入するのが主な目的と言えるでしょう。
この場合、目的を達成するだけであれば更新型の「定期保険」がオススメです。
理由は保険料が安く、全額経費で処理できるからです。
いかに安い保険料でたくさんの死亡保険金を受け取れるかが重要になります。
特に年齢が若い方は、死亡保障の割には保険料が安く済むのでこの「定期保険」はオススメです。
また必要な死亡保障の額が、時の経過とともに減少する場合があります。
具体的には借入金の減少・家族の成長などが挙げられます。
このような場合には、「逓減定期保険」や「収入保障保険」などを選択することにより
さらに保険料を抑えることが可能になります。
単純に死亡保障のみを目的とする場合は全額経費となる更新型の「定期保険」、
徐々に死亡保障が減少していく場合には「逓減定期保険」や「収入保障保険」と覚えておいてください。
いかに安い保険料で必要な死亡保障額を確保するかがポイントとなります。
こちらの保険は全額経費処理にできますが、「終身保険」や「長期平準定期保険」と違って
解約返戻金や満期金がありません。
そういった理由から保険料は安く済むわけですが、これがなぜ節税になるのかを説明します。
生命保険は個人で加入しているケースも多いと思います。
ご家族の生活のためには、個人で生命保険に加入することも必要です。
この個人的にも必要な生命保険ですが、その必要な保障の全てを個人で賄う必要はありません。
会社で契約した生命保険については、対象者が死亡した場合その生命保険金は会社に入りますが、
今度はその生命保険金を原資にして遺族に退職金として支給することができます。
つまり個人的に必要な保障を会社の経費でまかなえるということになります。
個人で加入するということは、個人が負担すべき所得税・住民税・社会保険料などを差し引いた後の所得から
保険料を負担していることになります。
個人で負担して加入している保険を会社契約に変更、その分の役員報酬を減額することで
個人の税負担が抑えられます。
生命保険は税を繰り延べるだけが節税手法ではなく、
契約者を会社に変更するだけでも節税可能なことがおわかりいただけると思います。
2・死亡保障額に退職金準備や将来への備えなども兼ね備える場合
生命保険の機能として重要な部分の一つに利益の繰り延べというものがあります。
これは支払保険料を会社の経費にしながら、解約返戻金を簿外資産として積み上げるというものです。
それを実現できるのが「長期平準定期保険」です。
こちらは「死亡保障」「節税」「財産形成」の3つを同時に実現できる優れた商品です。
1で説明した死亡保障だけを重視した更新型の「定期保険」は、会社の経費にはなりますが
解約返戻金がありません。
ここが単なる「定期保険」と「長期平準定期保険」との大きな違いです。
これはその名の通り、長期間保険料が一定の「定期保険」です。
具体的には、「契約時から〇〇歳までの死亡をずっと同額の保険料で保障します」という商品です。
生命保険の保険料は一般的に年齢が上がるほど上昇していきます。
死亡リスクが年齢を重ねるごとに上昇していくからです。
しかしこの「長期平準定期保険」は若いうちから満期の年齢まで保険料が一定です。
そこで若いうちに割高で支払う保険料は、前払いと考えられるので、その保険契約を解約した場合には
その前払い分が返戻金として戻ることになります。
会社契約で保険料を支払いその保険料を経費に計上しながら、解約返戻金を積み上げていくことにより、
生命保険本来の目的である死亡保障に加えて、役員退職金の準備や将来の経営リスクに備えることができます。
ある程度利益が計上できていて資金に余裕がある会社にとっては、最適の商品と言えるでしょう。
ただし会社で支払う保険料については、全額経費に出来るものと半分しか経費にできないものがあります。
一応注意してください。
3・短期間の税負担の繰延
2と同じように解約返戻金があり、保険料を経費にできる商品の中に「逓増定期保険」というものがあります。
こちらも2と同じように利益の繰延ができる商品なのですが、
長期間で解約返戻金の推移をみたときに非常に不利となってしまいます。
「長期平準定期保険」は解約返戻金の推移が一定で基本的には徐々に積み上がっていくような推移をします。
しかし「逓増定期保険」は解約返戻金の返戻率のピークが比較的早く、
ある一定の時期を過ぎてしまうとどんどん減っていってしまいます。
つまり短期的に税を繰り延べるのには向いていますが、長い間計画的に積み上げていくのには向いていません。
有利な返戻率で解約できる期間が短いので、「長期平準定期保険」に比べて管理が難しいのが実情です。
そんなわけで短いスパンで数年間だけ利益を繰り延べるのに適した商品と言えます。
死亡保障としてはその名のとおり、徐々に死亡保障額が増額していく生命保険です。
死亡保障としてはあまり使いみちがないというのが正直な印象です。
基本的には1の「定期保険」か2の「長期平準定期保険」を選択するのが王道となります。
あくまでも短期間だけ利益を繰り延べたいときに使用する商品とだけ覚えておいてください。
こちらも2と同じく全額を経費にできない契約があります。ご注意ください。
4・その他
その他の生命保険としては「終身保険」や「年金保険」、「養老保険」などがあげられます。
これらは基本的に会社の経費にならずに、保険積立金として資産に計上するタイプのものとなります。
(一定の条件により養老保険の半分を経費にするハーフタックスという制度あり)
死亡保障は保険料の割に極端に少なく、貯蓄性がたかいものとなります。
貯蓄を現金預金ではなく別の形で行いたい場合や、利回りが期待できる商品などがあれば
貯蓄として選択することになります。
また医療保険などを会社で契約して、ある程度保障を確保してから個人へ名義変更するなどの裏技的なものもあります。
このあたりは各会社の事情などにより選択することになりますが、
基本的には1か2の保険を上手に活用するのが最初のステップです。
間違っても、死亡保障を最大限に得たい場合に「終身保険」に加入したり、
死亡保障が十分な状態で「定期保険」を追加したりしないように気をつけてください。
まとめ
・単純保障重視 → 定期保険、逓減定期保険、収入保障保険
(最小の支出で最大の保障、経費に出来るが戻りは無い)
・保障・将来への備え・税の繰延 すべてを満たすバランス重視 → 長期平準定期保険
(保障・税の繰延・将来への備えの全てを満たすが、実際の保障より保険料割高で資金が必要)
・短期的な税の繰延目的→ 逓増定期保険
(一時的な短期間の税の繰延に向いているが、解約の管理が難しい)
・貯蓄性重視→ 終身保険、養老保険
(経費性なし、費用対効果が低い、単なる貯蓄性商品)