一般的に「相続対策」というとどのようなものが思い浮かぶでしょうか?
「相続税対策」である節税・納税資金の対策、
「争族対策」と言われる家族での争いを避ける対策などが代表的かと思います。
本来これらの対策と並ぶ重要な相続対策がありますが、こちらの対策はあまり世間では重要視されていません。
それは「遺す財産を選別する相続対策」です。
これは大変重要な対策です。
この対策を怠ると、遺族が無駄な相続税を負担することになります。
場合によっては全ての節税対策が無駄になるくらいの影響があります。
「要らないものを相続して多額の相続税を負担する」
これほど馬鹿らしいことはないのではないでしょうか。
「現在所有している財産のうち、どの財産を遺してどの財産を処分すべきか」
遺すべき財産は、生前にしっかり検討する必要があります。
そこでそのような状況に陥りやすい財産・状況を具体例を参考に説明いたします。
(1)共有名義の土地
ある地主さんのケースです。
先代、先々代からきちんとした相続対策が行われずに、共有の土地がどんどん増えて
土地の名義人が従兄弟や従兄弟の子どもなど複数になってしまっていました。
土地の評価は高く、相続税もバカになりません。
この土地を相続しても共有名義であることから売ることも貸すことも出来ずに
ただ高額な固定資産税を負担するだけという状況です。
相続して、ただその土地を所有し続けて、そのまま自分も亡くなってしまえば
無駄に相続税と固定資産を負担しただけということになります。
そしてその状況がまた自分の家族に引き継がれていくことになります。
このような土地を相続しても、相続した側には残念ながらメリットはありません。
早めの解決が必要となりますので、次のような対応を検討する必要があります。
①共有者に自分の持ち分を買い取ってもらう
②逆に共有者の持ち分を自分が買い取る
③共有のデメリットを全員で認識して、全員で売却を検討する
(2)価値のない土地
(1)の場合はまだ換金性がある土地なのでいずれ換金するチャンスがあるのでいいかもしれませんが、
全く換金性がない土地もあります。
こちらの場合、相続税や固定資産税はそれほど高額にならないかもしれませんが、
年に一度の草刈りなどの管理費や固定資産税など少額ではありますが、負担は生じます。
売れなくて貸すことも出来ない土地を相続して、管理費や固定資産税だけが発生するケースは結構多いです。
特に今後は増えていく可能性が高くなりそうです。
こちらも同じく考えられる対応策を示しておきます。
①たとえ少額でも売れるなら売却してしまう
②対象土地を必要としている人や団体、法人などを探して贈与・寄付を行う
(3)支配権のない非上場株式
換金性のない財産の代表として非上場株式があります。
こちらは自分が経営者であれば何の問題もありません。
しかし自分の先代が相続で取得したもの等で、
従兄弟などが経営する会社の株式などを持っていてもメリットはありません。
配当があったり、非常勤役員報酬などの支給があれば良いのですが、
そういうものが全く無く、利益を生まない場合には所有する意味は無くなってしまいます。
こちらも換金できれば問題ありませんが、換金できずにただ持っているだけということになれば問題です。
対応策ですが、こちらは早めに代表者や会社に対して買取請求をするのがベストです。
相続してしまった後の場合には、会社に自己株式として買い取りしてもらうと税金について特例もあります。
(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)
早めに現金化してしまいましょう。
(4)回収不能な貸付金
回収不能な貸付金は基本的に財産には含まれません。
しかし会社を経営している経営者は自分の会社に多額の貸付を行っている場合があります。
こちらはたとえ実際は回収不能でも、会社が健全に続いている限り財産として評価しなければなりません。
ただ会社に貸しっ放しで回収もできないお金に多額の相続税がかけられてしまっては、
家族はたまったものではありません。
早期に対策を練る必要があります。
対応策としては以下のとおりです。
①計画的な生前贈与
②会社で銀行借入を行い、個人貸付を回収して現金化
③債権放棄(株主への贈与となる可能性があるので注意)
④資本への振替(デット・エクイティ・スワップ)→評価減→贈与→減資
こちらはいずれも税務的な問題や金融機関との関係上問題が生じやすいので、専門家に相談する必要があります。
具体例を何点か挙げましたが、この他にも収益率の悪い不動産や値下がりを続ける株式など注意すべき財産は存在します。
例え相続税の負担が増えたとしても、「換金性と収益性の高い財産」の割合が高ければ税負担は苦になりません。
逆に相続税の負担が減ったとしても、「換金性と収益性が低い財産」の割合が高ければ税の負担感は高くなります。
「遺すべき財産」と「処分すべき財産」という観点から、ご自身の財産を区分してみてはいかがでしょうか?
今まで気づかなかった問題点が見つかるかもしれません。
まとめ
・相続対策は、税金対策・資金対策・家族対策に絞られがち
・一般的な相続対策と同じくらい大事なのが「財産の選別」